実践ガイド
卸価格の計算方法:製造原価から値札の価格まで
卸価格はシーズン全体を左右します。次のコレクション、エージェント、値引きの費用をまかないつつ、ブティックには顧客が受け入れる販売価格を残さなければなりません。すべての費用を含めた製造原価から店頭価格まで、5つのステップ、正確な計算式、具体的な計算例で解説します。
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この記事のポイント
- 卸価格は、すべての費用を含めた製造原価から出発し、店頭で市場が受け入れる価格と照らし合わせて検証します。
- 倍率は2段階で掛かります。製造原価から卸価格を決めるブランドの倍率と、卸価格から店頭価格を決める小売店の倍率です。
- マークアップ率は仕入原価に対する割合、粗利率は税抜販売価格に対する割合です。混同すると価格体系全体が狂います。
- エージェントへのコミッションや値引きは卸価格から、つまり利益から差し引かれます。余裕があるように見える倍率でも、手元にはほとんど残らないことがあります。
- 希望小売価格はあくまで「希望」です。最低再販売価格を小売店に強制することは禁じられています。
製造に20ユーロかかる商品が、ブティックの値札では105ユーロになることがあります。その間でブランドが決めたのが44ユーロという卸価格で、この数字がほかのすべてを左右します。低すぎれば、次のコレクションの資金も、エージェントへの報酬も、シーズン末の値引きもまかなえません。高すぎれば、店頭価格が最終消費者の受け入れられる水準を超えてしまい、小売店は追加発注をしてくれません。
このガイドでは、計算式と具体的な計算例を使って、手順をひとつずつ解説します。
卸価格と希望小売価格:読み手の異なる2つの価格
卸価格(下代)は、ブランドが小売店に販売する税抜の価格です。希望小売価格(上代)は、ブランドが消費者への販売価格として推奨する価格で、通常は税込で示されます。
どちらもラインシート(バイヤーに渡す価格入りの商品カタログ)に記載します。ブティックのバイヤーは、前者で仕入れ予算を立て、後者で自店の利益を確かめます。その間で、流通の各段階がそれぞれ倍率を掛けていきます。ブランドにとっては卸価格を製造原価で割った値、小売店にとっては販売価格を仕入価格で割った値です。
ステップ1:輸送費と開発費まで含めた製造原価を算出する
製造原価は計算全体の土台です。1点の商品が自社の倉庫に届くまでにかかる費用をすべて含み、素材代や縫製代はその一部にすぎません。
- 素材・副資材:生地、裏地、ボタン、ネーム、包装資材。
- 縫製・製造費。ロスやB品(二級品)の分も含めます。
- 自社倉庫までの輸送費。自国の関税領域の外で生産する場合は、輸入関税と輸入諸費用も加えます。
- コレクション開発費(試作、サンプル、パターン作成)の負担分。販売予定数で割って1点あたりに配分します。
人件費、家賃、展示会費用といった固定費は1点ごとには配分せず、利益でまかないます。だからこそ、不完全な製造原価は危険です。計上し忘れた費用はすべて利益から支払うことになります。
ステップ2:製造原価にブランドの倍率を掛ける
卸価格は、製造原価にブランドの倍率を掛けて求めます。たとえば製造原価が税抜20ユーロ、ブランドの倍率が2.2の商品なら、卸価格は税抜44ユーロとなり、ブランドには1点あたり24ユーロの粗利が残ります。
どのブランドにも通用する倍率はありません。カテゴリー、ポジショニング、販売数量、販路によって変わります。「正しい倍率」を探す前に、まず自社の利益で何をまかなう必要があるのか、つまり固定費、エージェント、値引き、売れ残りを見極めることです。この問いを計算式に置き換えるのがステップ4です。
ステップ3:卸価格から希望小売価格へ、小売店の倍率
次に、小売店が自らの倍率を掛けます。フランスのブティックでは、税込販売価格を税抜仕入価格で割った「税込倍率」で考えるのが一般的です。卸価格44ユーロに倍率2.4を掛けると販売価格は税込105.60ユーロとなり、これを切りのよい価格、ここでは105ユーロに切り下げます。
| ステップ | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 製造原価 | 素材費+縫製費+輸送費+開発費 | 20.00ユーロ(税抜) |
| 卸価格 | 20ユーロ × 2.2(ブランドの倍率) | 44.00ユーロ(税抜) |
| 希望小売価格 | 44ユーロ × 2.4(小売店の税込倍率)= 105.60ユーロ、105ユーロに切り下げ | 105.00ユーロ(税込) |
| ブランドの利益 | 44ユーロ − 20ユーロ | 24.00ユーロ(粗利率54.5%) |
| 小売店の利益 | 105ユーロ ÷ 1.20 − 44ユーロ | 税抜43.50ユーロ(粗利率49.7%) |
最後の行はこう読みます。ブティックが受け取るのは税込105ユーロ、20%の付加価値税を除くと税抜87.50ユーロです。商品を44ユーロで仕入れているので手元に残るのは43.50ユーロ、つまり税抜販売価格の49.7%です。
マークアップ率と粗利率:何が違うのか?
マークアップ率は利益を仕入原価で割った割合です。粗利率は利益を税抜販売価格で割った割合です。この例では、ブランドは原価20ユーロに対して24ユーロの利益を得ています。マークアップ率は120%ですが、粗利率は54.5%(24 ÷ 44)にすぎません。
ブティックが「利益率50%」と言うとき、ほぼ例外なく粗利率のことを指しています。バイヤーと数字を比べる前に、同じ指標で話しているかを確認しましょう。次の表は、いくつかの税込倍率を税抜倍率と粗利率に換算したものです。
| 税込倍率 | 税抜倍率 | 小売店の粗利率 |
|---|---|---|
| 2.0 | 1.67 | 40.0% |
| 2.2 | 1.83 | 45.5% |
| 2.4 | 2.00 | 50.0% |
| 2.5 | 2.08 | 52.0% |
| 2.8 | 2.33 | 57.1% |
両者を結ぶ式は、粗利率 = 1 −(1 + 付加価値税率)÷ 税込倍率 です。税抜倍率は、税込倍率を(1 + 付加価値税率)で割れば求められます。2.4 ÷ 1.20 = 2.00 です。付加価値税率が異なる国では、同じ税込倍率でも小売店に残る利益は変わります。市場ごとに計算し直しましょう。
ステップ4:コミッションと値引きはブランドの利益から差し引かれる
価格表に載せた卸価格が、そのままブランドの手取りになるわけではありません。歩合制のセールスエージェントは、自分が獲得した売上から取り分を受け取ります。早期発注、大口発注、早期支払いに対する値引きは、卸価格から差し引かれます。どちらの場合も、負担するのは利益です。
先ほどの例に戻りましょう。10%の値引きをすると、卸価格は44ユーロから39.60ユーロに下がります。製造原価は変わらないため、利益は24ユーロから19.60ユーロへと18%減り、ブランドの粗利率は54.5%から49.5%に下がります。値引きは常に、利益をどれだけ削るかで評価しましょう。この例では、10%の値引きが利益の18%を奪っています。
目標粗利率から卸価格を求める計算式
そこで、より確実なのは、倍率ではなく目標とする粗利率から逆算する方法です。おおよその目安は次のとおりです。
- 卸価格 = 製造原価 ÷(1 − 目標粗利率 − コミッション率 − 平均値引き率)。
- 例:原価20ユーロ、目標粗利率45%、コミッション12%、平均値引き5%の場合、20 ÷(1 − 0.62)= 税抜52.63ユーロ。
- 検算:52.63ユーロのうち、コミッションが6.32ユーロ、値引きが2.63ユーロ、利益が23.68ユーロ(45%)となり、原価の20ユーロもまかなえています。
注意:これらの割合は、価格表上の卸価格52.63ユーロを基準に計算しています。実際に受け取る正味価格50ユーロ(52.63ユーロから5%の値引きを引いた額)に対して見ると、23.68ユーロの利益は47.4%にあたります。エージェントのコミッションが値引き後の価格に対して計算される場合は、コミッションが6.00ユーロに下がり、利益は24.00ユーロ、正味価格の48%に上がります。
ここから導かれるブランドの倍率は約2.63(52.63 ÷ 20)で、最初の例の2.2を上回ります。この差は、エージェントと値引き方針を価格に織り込んだときにかかるコストを示しています。
ステップ5:下限価格を、店頭で付けられる価格と照らし合わせる
原価から積み上げる計算で得られるのは、下限となる価格です。次に、それを最終消費者が受け入れる価格と照らし合わせる必要があります。先ほどの例では、卸価格52.63ユーロに小売店の倍率2.4を掛けると、店頭価格はおよそ126ユーロになります。
同等の商品が100ユーロ前後で売られているなら、ブランドが取れる対応は3つです。製造原価を下げるか、コミッションや値引きの方針を見直すか、その価格で売れる販路にこの商品を絞るかです。相場から外れた価格のつけは、売れ残って店頭に残る商品として後から店で払うことになります。消化率(入荷した在庫のうち実際に売れた割合)には、最初の数週間でそれが表れます。
取引先の小売店に、自社のカテゴリーで実際に適用している倍率を尋ねてみましょう。倍率は店舗の業態、商品カテゴリー、国によって異なります。小売店の倍率を見誤るだけで、コレクション全体が相場から外れた価格になりかねません。
ブランドは販売価格を強制できるか?できるのは推奨だけ
ブランドは再販売価格を推奨することも、上限価格を設けることもできます。しかし、小売店に最低価格を強制することはできません。フランスでは、再販売価格に最低価格を課すことは商法典L442-6条により罰せられ、EU競争法も再販売価格の拘束をハードコア制限(特に重大な競争制限)として扱っています。
資料でもブティックとのやり取りでも、「強制価格」ではなく「希望価格」という言葉を使いましょう。
海外向けの卸価格:国・通貨ごとに1つの価格表
ユーロ建ての価格表をその日の為替レートで換算するだけでは不十分です。輸送費、関税、現地の付加価値税、場合によっては輸入代理店のマージンが、店頭に並ぶまでに上乗せされていきます。
国または地域ごとに、取引先の通貨で、シーズンを通して有効な価格表を作成し、為替変動に備えた余裕を持たせましょう。具体的な方法は海外向けホールセールのガイドで解説しています。
卸価格表を狂わせる6つの失敗
- 輸送費、関税、開発費を含めない製造原価で卸価格を計算する。
- バイヤーとの交渉で、マークアップ率と粗利率を取り違える。
- 利益を計算するときに、エージェントのコミッションや値引きを見落とす。
- 店頭で同等の商品がいくらで売られているかを確認せずに、希望小売価格を決める。
- すでに発注した小売店に知らせないまま、シーズン途中で価格を変更する。
- シーズンごとに通貨別の価格表を定めず、その都度の為替レートで換算する。
卸価格の計算:作業の順序
まず、輸送費、関税、開発費を含めた製造原価を1点ずつ算出します。次に目標とする粗利率を決め、エージェントのコミッションと実際に与えている平均値引き率を加え、ステップ4の計算式で卸価格を求めます。それに小売店が実際に使っている倍率を掛け、得られた価格を店頭の類似商品と比べ、利益に手をつける前に原価や販路を見直します。最後に、価格表を国別・通貨別に展開し、シーズン中は固定します。
よくあるご質問
製造原価から卸価格を決めるには、何倍の倍率を掛ければよいですか?
標準となる倍率はありません。カテゴリー、ポジショニング、そして利益でまかなうべきもの、つまり固定費、エージェント、値引き、売れ残りによって変わります。目標とする粗利率から価格を算出し、その結果として決まる店頭価格が市場で受け入れられるかを確認しましょう。
卸価格から希望小売価格はどう計算しますか?
税抜の卸価格に、自社のカテゴリーで小売店が適用している倍率を掛け、結果を切りのよい価格に整えます。卸価格が44ユーロ、税込倍率が2.4なら105.60ユーロとなり、これを切り下げた税込105ユーロが希望小売価格です。
マークアップ率と粗利率の違いは何ですか?
マークアップ率は利益を税抜の仕入原価で割り、粗利率は利益を税抜の販売価格で割ります。利益額が同じなら、マークアップ率は常に粗利率より高くなります。20ユーロで仕入れて44ユーロで売る商品の利益24ユーロは、マークアップ率120%、粗利率54.5%にあたります。
目標粗利率から卸価格を計算するには?
製造原価を(1 − 目標粗利率 − コミッション率 − 平均値引き率)で割ります。原価20ユーロ、目標粗利率45%、コミッション12%、平均値引き5%なら、卸価格は 20 ÷ 0.38 = 税抜52.63ユーロです。これらの割合は価格表上の卸価格が基準で、実際に受け取る正味価格50ユーロに対しては、粗利率は47.4%になります。
ブランドは小売店に販売価格を強制できますか?
できません。価格を推奨したり上限価格を設けたりすることはできますが、最低再販売価格を強制することは、フランス(商法典L442-6条)でもEU競争法でも禁じられています。
出典
- 流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針 — 公正取引委員会
- 輸出価格の算定方法 — 日本貿易振興機構(ジェトロ)
- Article L442-6 du Code de commerce — Légifrance
- Commission Regulation (EU) 2022/720 on vertical agreements and concerted practices — EUR-Lex
- N’imposez pas de prix de revente ! — Autorité de la concurrence
- Taux de marque — Bpifrance Création