実践ガイド
ホールセールの前払金と支払期限:シーズンの資金を確保する方法
前払金か解約手付か、60日か月末締め45日か、遅延利息と40ユーロの補償。フランスのホールセールの支払期限は商法典のルールに従いますが、よく知らないブランドも少なくありません。法律が定めることとブランドが決めることを分け、取引先が署名する書類に書き込むことが大切です。
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この記事のポイント
- 前払金(内金)は双方を拘束しますが、解約手付(フランス法の「arrhes」)はどちらにも契約を解除する余地を残します。発注書に書く言葉ひとつで、支払いの意味が変わります。
- フランスでは、事業者間で合意する支払期限は請求書の発行日から60日、または契約で明示的に定めた場合は月末締め45日を超えることができません。
- 支払遅延があれば、遅延利息と40ユーロの回収費用定額補償を請求できます。ただし、どちらも書面に記載してあることが条件です。
- 初回発注、長年の取引先、輸出。条件を分けることで、関係を損なわずに資金繰りを守れます。
- 3週間後ではなく支払期日当日に督促を送ることが、いまも期日どおりに支払ってもらう最も簡単な方法です。
コレクションは店頭で売れるずっと前に、デザインされ、生産され、支払いを終えています。展示会での受注から残金の回収まで、ブランドは生地、縫製、輸送の費用を数か月立て替えることが少なくありません。シーズンの資金繰りが成り立つかどうかは支払条件で決まり、販売条件書の末尾に置かれているからといって軽いわけではありません。組み立てるには、すべての事業者に適用されるフランス法の定めと、取引先ごとに調整できる自社の営業方針とを分けて考える必要があります。
遅延がなければ、中小企業の手元資金は130億ユーロ多かった
支払遅延はもはや日常の一部です。フランス銀行(Banque de France)が2026年9月に公表したフランス支払期限監視機関の2025年報告書によると、フランス企業の平均支払遅延日数は2025年末時点で13.4日と、欧州平均をわずかに上回りました。同報告書は、こうした遅延がなければ、中小企業と零細企業は130億ユーロ多くの資金を手元に確保できたと試算しています。
取引先の規模は何の保証にもなりません。同じ報告書によると、法定期限の60日以内に仕入先へ支払っている大企業は2社に1社にも満たないのが実情です。セレクトショップと百貨店の両方に卸すブランドは、年に一度送る一般条項で済ませず、支払条件を取引先ごとに考える必要があります。
前払金か解約手付か:ブランドにとって何が違うのか
どちらも発注時に支払う金銭を指しますが、法的効果は正反対です。フランス法では、解約手付(arrhes)は契約から離脱するための手段です。フランス民法典第1590条により、手付を交付した側はそれを放棄して売買を取りやめることができ、受け取った側は倍額を返還して取りやめることができます。前払金(acompte)は確定した売買に対する最初の支払いであり、どちらにも離脱する権利を与えません。
たとえば、ある店舗が発注時に3,000ユーロを支払い、納品前に考えを変えたとします。発注書に「手付」とあれば、店舗はその3,000ユーロを失うだけで手を引けます。ブランドがすでにその店舗向けの生産を始めていても、です。「前払金」とあれば、店舗は注文全額を支払う義務を負い続けます。
| 項目 | 前払金(acompte) | 解約手付(arrhes) |
|---|---|---|
| 約束の性質 | 確定した売買 | 解除権付きの売買 |
| 買い手が取りやめた場合 | 注文代金の支払義務が残る | 支払った金額を失う |
| ブランドが取りやめた場合 | 納品義務が残る | 倍額を返還する |
| ホールセールでの使い方 | 最も一般的。明記しておくべきもの | 受注に応じて生産する場合は避けるべきもの |
発注書、販売条件書、請求書には「前払金」と明記し、割合と支払期日を記載しましょう。
ホールセールの支払期限:フランス商法典の定め
フランス商法典は事業者間の支払期限を規制しており、これらは強行規定です。契約で期限を延ばすことはできません。第L441-10条は4つの基準を定めています。
- 当事者間で合意がない場合、期限は商品受領後30日です。
- 合意する期限は、請求書の発行日から60日を超えることができません。
- 例外として、契約に明示的に定め、債権者にとって明らかな濫用とならない場合に限り、月末締め45日とすることができます。
- 遅延利息は催告を要さずに請求でき、これに加えて回収費用の定額補償があります。その額は第D441-5条により40ユーロと定められています。
利率は販売条件書で定めます。定めがない場合は、欧州中央銀行のリファイナンス金利に10ポイントを上乗せした率となり、フランスの法定利率の3倍を下回ることはできません。フランスの競争・消費者保護当局であるDGCCRFがこれらの期限の遵守を監督しており、法人に対する行政制裁金は最大200万ユーロに達することがあります。
業種によっては特別な期限があり、条文も改正されます。条件を作成・見直しする前に、Légifranceまたは DGCCRF で最新の規定を確認してください。
支払スケジュールを組む:前払金、残金、支払期日
多くのブランドは、発注時の前払金と、納品時または期日払いの残金を組み合わせています。前払金は生地の仕入れの一部をまかない、取引先の発注を確定させます。残金は出荷後に支払われます。前払金の割合は最低発注量と同じように、同業者から聞いた慣行ではなく自社の実際のコストから決めます。具体的な数字で見てみましょう。
- 税抜10,000ユーロの注文で前払金30%の場合、署名時に税抜3,000ユーロを請求できます。
- 残金の税抜7,000ユーロは、出荷日の3月15日に請求書を発行します。
- 請求書の発行日から60日の期限とすると、支払期日は5月14日になります。
展示会での署名から5月14日までに、ブランドは生地メーカーや縫製工場への支払いを済ませていることが多いでしょう。前払金はこの資金の空白を埋めなければなりません。さらにこの取引先がフランス銀行の示す平均遅延の13.4日分遅れて支払えば、7,000ユーロが届くのは5月末ごろです。スケジュールは受注の大半が決まる展示会の段階から準備します。その方法は展示会の準備と受注のガイドで詳しく解説しています。
早期支払割引:見落としがちなコスト
早期支払割引とは、支払期日より前に支払う取引先に認める値引きです。たとえば10日以内の支払いで2%とすると、税抜7,000ユーロの残金に対して140ユーロになります。入金は早まりますが、その代償は短期借入のコストと比べて判断すべきです。
計算は単純です。取引先が60日ではなく10日で支払えば、ブランドは50日分の前倒しに2%を払うことになり、年率に換算すると約14.6%(2% × 365 ÷ 50)です。当座貸越や運転資金の融資枠のほうが安く済むこともあります。
フランスでは、請求書に適用される早期支払割引の条件を記載しなければなりません(フランス商法典第L441-9条)。多くのブランドは単に「早期支払割引なし」と記載しています。
取引先が合意する場所に条件を書く
年に一度送る書類だけの支払条件では、何も守れません。取引先が確認する発注書に、次の5項目を記載すべきです。
- 前払金の割合
- 支払方法
- 残金の支払期日
- 遅延利息の利率
- 回収費用の定額補償
発注書の電子署名によってこれらの条件が取引先の同意と結びつき、その後の督促もしやすくなります。
取引先のタイプ別に、どんな支払条件にするか
一律のルールは簡単ですが、公平とは限りません。営業エージェントを通じて販売している場合は、条件表を書面で渡しておきましょう。商談で条件を伝えるのはエージェントで、その場で決めた支払期限もブランドを拘束します。
- 初回発注:支払状況がわかるまでは、前払金を高めにするか、出荷前の全額前払いとします。
- 支払いが安定している長年の取引先:法定の範囲内で、前払金を減らし期日払いとします。
- 前シーズンの支払いが遅れている取引先:シーズン中の追加発注の出荷前に残金の支払いを求めます。
- 輸出:支払期限は契約の準拠法や取引先の国によっても変わります(海外向けホールセールを参照)。
輸出代金の回収を確実にする
欧州連合域内では、指令2011/7/EUも事業者間の支払期限を原則60日とし(明示的な合意があり、債権者にとって著しく不公正でない場合を除く)、回収費用として最低40ユーロの定額補償を定めています(欧州と米国のホールセール規制を参照)。欧州委員会は2023年9月、この指令をより厳格な規則に置き換える案を提出し、欧州議会は2024年4月に立場を採択しましたが、理事会では加盟国の合意に至っていません。2026年10月時点でこの案は宙に浮いたままで、適用されるのは引き続き指令です。EU域外の取引先や、まだよく知らない取引先には、前払金に加えて次の3つの手段があります。
| 手段 | 仕組み | 注意点 |
|---|---|---|
| 前払い | 取引先が出荷前に全額または一部を支払う | ブランドにとって最も安全だが、バイヤーにとっては魅力が薄い |
| 信用状(L/C) | 取引先の銀行が、条件に合致した書類と引き換えに支払いを約束する | 手続きが厳格で手数料がかかるため、見合う金額の取引向け |
| 取引信用保険 | 保険会社が不払いリスクの全部または一部を補償する | 保険料が必要で、与信限度額は取引先ごとに設定される |
関係を損なわずに支払遅延を督促する
督促がうまくいくのは、あらかじめ決まったリズムに沿っていて、取引先がそれを見越すようになったときです。4つのステップで足ります。
- 支払期日の数日前に、請求書を添えて丁寧なリマインドを送る。
- 支払期日の翌日に、金額と期日を改めて伝える。
- 担当の営業またはエージェントが電話をかけ、その後、定めた遅延利息と補償に触れた書面で督促する。
- 最終手段として正式な支払催告を送り、残金の入金まで新規出荷を止める。
入金を遅らせる5つの失敗
- 前払金のつもりで「手付」と書き、取引先に逃げ道を与えてしまう。
- 遅延利率と40ユーロの補償を、販売条件書にも請求書にも記載し忘れる。
- 口頭で支払期限を認め、後から誰も確認できない。
- 前シーズンの代金を払っていない取引先に追加発注分を出荷する。
- 遅延が常態化してから、ようやく督促を始める。
次のシーズンの前に、この順番で
まず販売条件書、発注書、請求書を見直します。「前払金」という言葉、遅延利率、40ユーロの補償は、この3つすべてに記載されていなければなりません。次に取引先のタイプ別(初回発注、長年の取引先、支払いの遅い取引先、輸出)の条件表を決め、展示会の前にエージェントへ書面で渡します。最後に督促のスケジュールを支払期日に合わせ、最初のリマインドが期日の後ではなく前に届くようにします。ここで使った用語はホールセール用語集でも解説しています。
よくあるご質問
前払金と解約手付の違いは何ですか?
前払金は確定した売買に対する最初の支払いで、買い手もブランドも契約から離脱できません。解約手付(フランス民法典第1590条の「arrhes」)は、双方に契約を解除する余地を与えます。買い手は手付を放棄することで、ブランドは倍額を返還することで解除できます。
フランスの事業者間の支払期限の上限は?
フランス商法典第L441-10条により、合意する期限は請求書の発行日から60日、または契約で明示的に定めた場合は月末締め45日を超えることができません。合意がない場合は、商品受領後30日です。これらは強行規定であり、契約で延ばすことはできません。
支払いが遅れた場合、ブランドは何を請求できますか?
販売条件書に定めた利率による遅延利息(催告不要)と、回収費用として40ユーロの定額補償を請求できます(フランス商法典第D441-5条)。どちらも販売条件書と請求書に記載しておく必要があります。
遅延利息の利率はどう決めればよいですか?
利率は販売条件書で定めます。定めがない場合は、欧州中央銀行のリファイナンス金利に10ポイントを上乗せした率となり、フランスの法定利率の3倍を下回ることはできません。
初回発注ではどのくらいの前払金を求めるべきですか?
法定の割合はなく、営業上の判断です。多くのブランドは新規の取引先に高めの前払金、場合によっては出荷前の全額支払いを求めます。その後、期日どおりに支払う実績ができてから条件を緩めています。
出典
- Article L441-10 - Code de commerce - Légifrance — Légifrance
- Article D441-5 - Code de commerce - Légifrance — Légifrance
- Délais de paiement : les règles à connaître — DGCCRF – economie.gouv.fr
- Le rapport annuel 2025 de l’Observatoire des délais de paiement : des résultats contrastés selon les acteurs — Banque de France
- Procedure 2023/0323/COD COM (2023) 533 — EUR-Lex